泌尿器科

前立腺がん・腎細胞がん・尿路がん炎

泌尿器科のがん

癌は痛みを伴わないことが多く、痛くないからといって放っておくと困った事態になることがありますので、検診や人間ドックで異常を指摘された場合は病院受診をお勧めします。

腎臓にできる腫瘍

腎細胞がん

腎臓にできる悪性腫瘍です。
好発年齢は50-60歳 男:女=2~3:1と男性に多くみられます。

超音波検査やCTなど画像検査が発達していない頃は
  • 無症候性肉眼的血尿(痛くもかゆくもないが出る血尿)
  • 腰背部~脇腹にぼこっとしたものを触る
  • 腰背部~脇腹の痛み
が腎細胞がんの3主徴と言われていました。

最近は人間ドックや検診で無症状の小さいうちに見つけられることが圧倒的に多くなりました。
腎細胞がんで行う検査

超音波検査、CT(できれば造影CT)、場合によってはMRIで行います。
他の癌のように生検(組織を取って検査をする)ことは稀です。

治療方法
手術療法
腎細胞がんには有効な化学療法がなく、放射線治療も無効です。
治療は手術で腎臓・腎臓を含む周囲の脂肪・副腎・リンパ節を取り去ってしまう根治的腎摘除術が基本です。
小さい腫瘍であれば腫瘍の周囲のみを切除する腎部分切除術が選択される場合もありますが、腫瘍ができた場所によっては小さくても根治的腎摘除術を行わないといけないこともあります。
腎細胞がんに限り、転移があっても手術を行うことがあります。
(ほかの癌で転移があるのに原発巣を真っ先に手術して取ることは稀です。)
分子標的薬
転移がある方や体の問題で手術ができない方、手術後の転移が出現した方には、血管新生阻害薬やmTOR阻害薬を使用します。
・分子標的薬とは癌細胞が持つ、正常細胞とは異なる特徴を狙って作用する薬です。
癌は大きくなるために血管を呼び寄せるのですが、それを阻害するのが血管新生阻害薬です。 ソラフェニブ、スニチニブ、アキシチニブなどがあります。
・mTORとは細胞の分裂や増殖を促すスイッチの役割をするもので、これを阻害するのがmTOR阻害薬です。エベロリムス、テムシロリムスなどがあります。
サイトカイン療法
インターフェロンαやインターロイキン2といった、私たちの体が外部から侵入してきた外敵(細菌、ウイルス、癌細胞など)に対して抵抗するために産生するサイトカインを製剤化したものです。

腎盂がん・尿管がん(尿路上皮癌)

腎臓は血液を越して尿を作り、老廃物を体外へ排出する重要な役割を持った臓器です。
できた尿は(腎盂~尿管~膀胱)尿路を通って膀胱に流れます。この尿路にも腫瘍が発生します。
この腫瘍も中年以降の男性に多く発生します。
症状について
症状は無症候性肉眼的血尿(痛くもかゆくもないのに出る血尿)が最も多く、時に人間ドックでの超音波検査などで見つかることもあります。
診断には超音波検査やCTなどの画像検査、尿細胞診(尿中に変な細胞が見えないか確認する検査です)を行います。
検査方法

腎盂~尿管の腫瘍に対しては、分腎尿採取と言って左の腎臓でできた尿と右の腎臓でできた尿を別々に採取し、それを尿細胞診に提出する場合や、手術室で腎盂~尿管を見る内視鏡検査を行うこともあります。

腎盂~尿管の腫瘍の場合には膀胱にも腫瘍ができていることも多いため、膀胱内視鏡検査を行うことが多いです。

治療方法
手術療法
治療は転移や浸潤を来していないものに対しては手術を行うことが多いです。
出血をコントロールできない症例に対しては、転移を来していても腎臓を摘出する場合もあります。
腎盂~尿管の腫瘍に対しては腎尿管全摘除術+膀胱部分切除術を行うことが基本です。
腎盂のみ摘出することはできません。

尿管の一部分にできていても基本的には同じ手術を行いますが、状況によってはその限りではありませんので(腎臓が一つしかない、腎機能が著しく低下している、腫瘍かかなり小さく、根も浅いなど)主治医と十分相談されて下さい。

化学療法
転移や浸潤を来し、手術が困難な症例に対しては、化学療法が選択されることが多いです。
化学療法については、転移がなくとも手術前の補助療法、手術後の補助療法として行うこともあります。

膀胱がん

腎盂がん、尿管がんと同じく尿の通り道にできる腫瘍です。
発生頻度は男:女=3:1で50代以降の方に多いです。
発生要因としては染料などに含まれる芳香族アミン、喫煙、サッカリン(人工甘味料)、膀胱結石などが知られています。
膀胱がんで行う検査

尿細胞診や超音波検査、膀胱内視鏡検査、CT検査、MRI検査などを行い、腫瘍の位置や腫瘍の根っこの深さ、転移の有無を確認します。
確定診断は生検で行います。(診断と治療を兼ねた経尿道的膀胱腫瘍切除術を行うこともあります。)

治療方法
治療は手術療法、化学療法、放射線療法があります。 根っこが深くないものは経尿道的膀胱腫瘍切除術だけで治療が終わることもあります。
しかし、膀胱腫瘍は再発率が高く手術後も定期的に検査をすることが必要です。
手術後に膀胱内に抗がん剤を注入する膀胱内注入療法を行うこともあります。
根っこが深く、筋層に達している場合には膀胱を全部取ってしまう根治的膀胱全摘除術が適応となります。
この場合には尿を出すところを変更する尿路変更術も併せて行うことになります。 どうしても膀胱を取りたくないという方に対しては、放射線治療や化学療法(局所動脈内注入療法)を組み合わせて行うこともあります。
膀胱がんを含む尿路上皮癌は化学療法に感受性が高い腫瘍であるため、転移がある腫瘍や、切除できない腫瘍の場合はシスプラチンという抗がん剤をメインとした全身化学療法を行います。
また、化学療法は手術の根治性を高めるために手術前に行うことや、手術後に深達度が深かった場合にも追加で行うことがあります。
放射線療法は手術療法や化学療法と異なり、それだけで癌の再発を抑えることは難しく、膀胱そのものへの放射線障害や、直腸など近くの臓器への障害を与えることもあります。
そのため、放射線療法のみを治療に用いることは殆どありません。
患者さんそれぞれに合った治療法を選択していくことが必要です。
治療法については主治医と十分にお話しください。

前立腺がん

前立腺というのは膀胱の下にあり、膀胱直下の尿道を取り囲むように存在しています。精液の一部を産生している臓器で男性にしかありません。
加齢に伴い前立腺がんにかかる方が増えます。白人や黒人に比べ、日本人の発生率は低く、脂肪摂取、肉食がその一因ではないかと言われています。
また、大豆製品、緑茶などの摂取が前立腺がんの発生を抑制するエストロゲンと似た働きをすることも知られています。
(エストロゲンを利用できる方は日本人では50%と言われており、利用できる形であるエクオールというサプリメントも市販されています。)
前立腺がんで行う検査

検診でPSA(Prostate specific antigen:前立腺特異抗原)が高い値を示すと前立腺がんの可能性があるとのことで泌尿器科受診をされ、検査・診断・治療される方が現在は圧倒的に多いです。
前立腺がんの症状はかなり進行しないと出てこないためです。骨転移を来し、痛みを生じて初めて判明することも稀ではありません。
PSAが高いから必ずしも癌であるとは限りません。確定診断には前立腺針生検を行うことが必要です。
これはクリニックで行っている施設は少なく、前立腺がんが疑われる場合は、入院施設の整っているところへ紹介させて頂くことになります。

治療方法
治療は手術療法・放射線療法・内分泌療法・化学療法があります。
PSAも低く、CT,MRIなどで転移や周りの臓器への進達が疑われなければ、手術療法や放射線療法を行うことになります。
この治療法の選択には生検の結果がかかわることになります。
手術療法
手術療法は前立腺を取り去ってしまう、根治的前立腺摘除術のみです。
近年ではこの手術をロボットや腹腔鏡下に行うことが多くなりました。
前立腺を取り去ると、尿道が分断されてしまうので、尿道をつなぎ合わせるまでが一連の手術になります。
放射線療法
放射線療法も手術療法同様適応が限られますが、根治的治療として用いられます。
方法は体の外から放射線を照射する外照射と前立腺に放射線源を埋め込む小線源療法の2つです。
これらを行うと、手術療法は諸事情によりできなくなりますのでご注意ください。手術療法後の再発に対しては放射線治療をすることがあります。
内分泌療法
前立腺がんは男性ホルモン(アンドロゲン)を餌に大きくなり、女性ホルモン(エストロゲン)で発育が抑えられることを利用した治療法が内分泌療法です。
精巣を取ってしまう去勢術・男性ホルモンの分泌を抑える注射・前立腺がんの男性ホルモンを受け取る機能を邪魔する薬・エストロゲン療法などがあり、これらを組み合わせて行うことが多いです。とてもよい治療法ですが、続けていると効果を失ってしまうことがあります。
この状態を再燃といいます。再燃すると薬剤を変更したり、抗がん剤投与を行うなどして対応します。
前立腺がんの患者さんは高齢男性が多く、最初から内分泌療法を選択され続けていることがあります。
もちろん、ずっとうまく治療がいく方もおられますが再燃する方もいらっしゃいます。
抗がん剤も効果はありますが、両刃の剣であり、ご高齢の方には慎重に投与していくことが必要です。